レポート
Report
ほくみ能登助成
2025.1.30
被災した今、地域に必要なものを掬い上げて形にする「みんなの居場所づくり」〜のとルネ実行委員会〜
ほくりくみらい基金の「令和6年能登半島地震 災害支援基金」の中でも「つづける支援活動助成」では、能登半島地震を受けて被災地支援活動を継続する取り組みに対して、助成を実施しています。
採択団体のひとつ、七尾市駅前の複合商業施設「パトリア」にて活動を展開する「のとルネ実行委員会」の活動の様子を紹介します。
こちらで能登半島地震発災直後から小学生以下の子どもたちを対象とした「みんなの遊び場」、中高生を対象とした「みんなの学び場」と名づけた子どもたちの居場所づくりの支援活動を続けている「のとルネ実行委員会」。今回は代表の山﨑 香織さん、北山 里江さんにお話をお伺いしました。
女性の力で能登の魅力発信「のとルネッサンスプロジェクト」
のとルネ実行委員会さんは震災以前から活動をされていますが、まずはどのような趣旨で立ち上がった団体なのかお尋ねしました。
「元々、能登の魅力発信を行う団体として『のとルネ(のとルネッサンスプロジェクト)』を結成していました。
数年前に七尾市を含む能登の多くの地域が消滅可能性があるということを知り、なんとかしないといけないという気持ちから『女性の意見を聴いてみよう!』と思い、能登在住や能登ご出身など、能登に縁のある女性を対象に声をかけて2018年に『のとルネ100人女子会』という企画を開催しました。
開催してみると年齢層も幅広い方々が集まり、皆さんとても能登のことが好きだということがわかりました。一方で、能登の良さが能登内外に伝わっていないことが問題だという結論が出ました。
能登はお祭りもあるし、人もいいし、自然もいいし、美味しいものもいっぱいある。すでにあるその魅力を発信していけたらいいねということになり、のとルネが始まりました」
年に1度100人女子会を開催していく中で徐々に賛同者が増加。メンバーにライターを仕事とする人もいてホームページやSNS上で記事を発信していく現在の形式になったそう。
コアメンバーとしては七尾市、羽咋市、志賀町在住の11人が所属しており、能登半島全域のイベントや飲食店などの魅力発信に取り組んでいます。
自分たちができることから、被災地支援を
「令和5年の年末までは普通に今まで通りの記事を毎日上げていたんです。“除夜の鐘スポット”や“お蕎麦の美味しいお店”などの記事がまさにそうです。そこに震災が起きました。幸い家も潰れず無事でしたので、自宅で『これからどうしよう』と思案していたところ、
以前から繋がりのあったテレビ局から依頼があって、外に出て地割れの状況などを撮影して送ったんです。その映像がその日の夜のニュースで流れたことで『みんな現地の情報が知りたいんだな』ということに気がついて、とりあえず被災地の状況を伝えることをやってみようと思い立ち、すぐに記事を書き投稿しました」
必要な物を集めること、必要な情報を広めること
「被災状況の情報を集めている中で、1月2日の段階で『七尾市の備蓄品や支援物資が配られていない。民間からの支援物資の受け入れができない』という情報が届きました。そこで、私たちは創生ななおさんと協力して、支援物資の受け入れと配布、HPやSNSを使って物資支援に関する情報発信を引き受けることにしました。
集まった支援物資の仕分け等の作業は熊本支援チームの方が担当してくれることになり、1月3日には協力して被災地支援をすることが決まりました」
「避難所の子どもが可哀想」という声から
「そのような活動を続けている中で、被災した方々の話をうかがっていると『子ども達が可哀想だ』という声を耳にしました。
避難所にいたら『騒がしい』と怒られて肩身の狭い思いをしている、のびのびと遊ばせてあげたいと。パトリアの3階に空いているスペースがあったので、『じゃあここに子ども達の遊び場を作ろう』という話になりました。
ちょうど『子どもの支援をしたい』という団体さんも現れて、2月4、5日に絵を描くワークショップを開催することになりました。それから多くの方々の支援を受け、おもちゃを増やしたり、少しずつ遊び場を充実させてきました」
「みんなの遊び場」の移動、「みんなの学び場」の開設
利用者も増えてきて取り組みの効果を実感していたそうですが、遊び場スペースのお隣には学習塾があります。未就学児たちの賑やかな声が、塾に通うお子さんたちの学習の妨げになってしまう状況になってきました。
防音対策に試行錯誤していたところ、ちょうどパトリア1階にある飲食店さんが規模縮小をするので、その空いたスペースに移動することに。
そして元の3階のスペースには中高生向けの自主学習スペースとしての「みんなの学び場」を整備しようということになりました。
そこで、のとルネ実行委員会は「みんなの遊び場」移動、「みんなの学び場」の開設に向けての資金調達のため、ほくりくみらい基金の「つづける支援活動助成」に申請を行いました。
支援活動を金銭的に支援してくれる仕組み
「当初はこういった被災地での活動を金銭的に支援してくれる仕組みがあることを知らなくて。でもボランティアの方々の活動費はいったいどこから出ているのだろうと気になり調べてみたところ、金銭的な支援をしてくれる団体が存在するということを知りました。
中でも、ほくりくみらい基金さんの助成金は備品だけではなく、人件費やイベント活動にも使わせていただいています。特に人件費は助成金としては初めていただいたので、とても助かっています」
地域の声を掬い上げて、発信するという支援
自身も被災しているのに、すぐに支援活動を始める決断をした山崎さん。朗らかに力強くお話されている姿から、今までの取り組みの実感が伝わってきます。
「2月頃に支援物資で足りないものが出て来た時にAmazonのほしいものリストを作ってSNSで発信してみました。すると携帯の通知が止まらず、寝れなくなるぐらい多くの反応があり驚きました。すぐにたくさんの支援物資が届き、仕分け作業をしました。たくさんの方が支援して下さって、温かい人がたくさんいることが分かり心が熱くなりました」
そして、遊び場を運営していて少し気になることがあるとお話される山﨑さんと北山さん。
「遊び場は小学生以下を対象にしており自由に出入りできますが、保護者の見守りをお願いしていて、遊んだ後は片付けていただくルールにしています。ルールを守って使用していただくことで、未就学児も安心して遊べるようにしたいという思いがあります。
しかしスタッフが常駐している運営方法ではないので、伝え方に苦労していることをほくりくみらい基金さんに相談したところ『利用者の方から感想や思いを聞いてみてはどうか』とアドバイスをいただきました」
「現在遊び場の方に自由にご意見を書いていただくコーナーを設けています。みんなの遊び場以外のことについて『子どもを遊ばせる時に困っていることはあるか』『どんなサポートがあると子育てがしやすいか』なども聞いています。
いただいたご意見からは、行政やテナントビルがこの場所を設置していると思われている方もいる様子でした。
『子どもが走り回れる全天候型の遊び場が欲しい』『3歳以下の保育料を免除してほしい』『公園が少ない』などの意見もあります。ここに集まってきた声を発信することで、子どもの遊び場や居場所づくりがとても大切だということを多くの人に知ってほしいです。
そして、今は民間のボランティア活動として行っていますが、今後は行政が主体的に子どもたちが安心して遊べる場所や勉強をする場所の整備・運営を行ってくれることが良いのではないかと思っています。」
地域で足りていない機能を形にしていく
「元々七尾市には子どもが遊ぶ場所が少ないということが地域の課題としてありました。現在の活動は地震により被災したことがきっかけにはなりましたが、できればここまで整ってきたこの「みんなの遊び場」と「みんなの学び場」の取り組みを行政などに引き継いでいただいて、私たちは今後もっとこの地域で足りていないと思う機能を掬い上げて補っていく取り組みを続けていきたいです。そのことが地域の復興・再生につながると信じています」
まさにルネッサンスを体現しているのとルネ実行委員会の取り組み。山﨑さんは今後の展開についてこう語ります。
「課題はたくさんあると感じているので、様々な分野でどんどんプロトタイプとなるような取り組みを興して、ビジネスとしても成立するようになっていくことが理想ですね。のとルネメンバーには様々の得意分野を持った人がたくさんいるので、得意なことを活かしながら課題解決してけると良いなと思います」
今後「能登はどうなりたい」のか
「今考えていることは、これから能登はどうなりたいのかなということです。
復興をしていく中で、例えば観光に力を入れていくとした時に、昨今の日本の観光地は、オーバーツーリズムによる弊害や観光客に寄せたビジネスが問題視されています。
観光に来てもらうのは良いことだけど、果たしてそのような姿になることが能登にとって幸せなことなのかと。そのために能登が本来持っている良さが失われてしまっては本末転倒です。
できれば能登のありのままの良さを分かってもらえる人に来て欲しい。このあたりのことを、今後開催する『のとルネ100人女子会』のテーマにして、復興の方向性について問いかけをしてみたいなと考えています」
地域の魅力を発信するために、魅力的な地域づくりをする必要がある。
のとルネ実行委員会の被災地支援の取り組みや今までの取り組みから、平時はもちろん有事の時こそ、小さな声を掬い上げて、その課題に少しずつでも対処していくことが地域の魅力向上につながるという道筋が見えました。
(取材:2024年11月)
のとルネッサンスプロジェクト
HP:https://noto-renaissance.net/
Instagram:https://www.instagram.com/notorune/
文章・写真:舟場 千草
石川県能登町生まれ。15歳で地元を離れ、2018年に金沢から珠洲市へ移住。2024年能登半島地震で被災し金沢に避難中。株式会社ENN/金沢R不動産に在籍中。